Ⅱ型アラビノガラクタン(Ⅱ型AG)鎖はβ-1,3-ガラクタン主鎖とβ-1,6-ガラクタン側鎖から構成され、その末端にL-アラビノース等が付加されている。Ⅱ型AG鎖をもつアラビノガラクタン・プロテイン(AGP)は、大豆、小麦、大根などでその存在が確認されている植物細胞壁に普遍的に存在する糖タンパク質である。また、赤ワインやコーヒーなど植物成分を含む飲料にも存在が示されている。さらに、Ⅱ型AG鎖は食品添加物(増粘安定剤)としても用いられているカラマツAGP(カラマツAGP)やアラビアガムAGPに含まれている。これまでに、Bifidobacterium longum等の一部のビフィズス菌だけがカラマツAGPやアラビアガムAGPに対する資化性を有することが報告されており、特にアラビアガムに関してはヒトに投与した場合でもビフィズス菌を増やすという報告も出ている。我々は、B. longum由来のⅡ型AG分解酵素群の探索の結果、B. longum JCM1217がコードするBLLJ_1840がβ-1,3-ガラクタン主鎖を非還元末端側から切断するGH43-24エキソ-β-1,3-ガラクタナーゼであることを明らかにした。また、BLLJ_1841がβ-1,6-ガラクタン側鎖を非還元末端側から二糖単位で切断するGH30-5エキソ-β-1, 6-ガラクトビオハイドロラーゼであり、新しい基質特異性を持つ酵素としてEC 3.2.1.213に登録されたExplorEnz。また、BLLJ_1854がAGPの修飾糖であるα-1,3-Arafを切断するGH43-22α-L-アラビノフラノシダーゼであることを明らかにした。下の図に示すように、ビフィズス菌菌体表層に局在したエキソ-β-1,3-ガラクタナーゼとエキソ-β-1, 6-ガラクトビオハイドロラーゼ、及びGH43-22α-L-アラビノフラノシダーゼの協同作用によりⅡ型AGを切断し、遊離したβ-1, 6-ガラクトビオースがABC輸送体を経て菌体内に取り込まれ、菌体内酵素であるGH42 β-ガラクトシダーゼ(BLLJ_0443)により、ガラクトースに分解され、各代謝経路を経てビフィズス経路に合流し、最終的に酢酸や乳酸に代謝されると考えられる。Ⅱ型AGの分解と取り込みに関与する酵素群はBLLJ_1840-BLLJ_1854とBLLJ_0440-BLLJ_0448の二つの遺伝子群にコードされており、カラマツAGの添加で転写誘導される。このため、本酵素群を使って比較的修飾糖が少ないカラマツAGPを分解・資化するB. longumのAGPの基本骨格を分解する重要な働きを持つと考えられる。
一方、アラビアガムAGPは、これらの酵素群を持つB. longum JCM1217では資化することができず、B. longum JCM7052で資化することが分かっていました。私たちは、森永乳業(株)と共同でこれらの菌株に加え森永乳業保存菌株を用いた比較ゲノム解析と資化性を組み合わせた解析を行った結果、ビフィズス菌B. longumを増やすために必要不可欠な鍵酵素「GAfase」を世界で初めて発見しました。GAfaseはアラビアガムの末端の二糖を切断する酵素です。この酵素によって切り出されたオリゴ糖を利用することでビフィズス菌が増えるだけでは無く、切り出すことで他の酵素がアラビアガムの糖鎖の内部にアクセスしやすくなることでより多くのオリゴ糖を獲得できるようになることを明らかにしました。本研究は、アラビアガムの複雑な糖鎖構造を分解する能力が、ビフィズス菌の特定の菌株が持つ鍵酵素「GAfase」に依存したものであることを詳細に解析したものです。これは、「GAfase」遺伝子を持つB. longumを腸内に持つ人と持たない人で、プレバオイオティクスとしてのアラビアガムの有効性が異なる可能性があることを意味しています。しかし、多彩な菌種から構成される複雑な腸内細菌叢において、他の細菌との関係も考慮する必要があり、さらなる研究が求められます。
また、同時にGAfaseで末端二糖を除去したアラビアガムAGPは我々が以前に発見していたAGP基本骨格分解酵素群で分解されることも明らかにしました。これは複雑な修飾糖を切断することで酵素が作用しやすくなったことを意味しました。さらに、GAfaseで末端二糖を除去したアラビアガムAGPはGAfaseを持たないB. longum JCM1217で資化されることも明らかにしました。これは、ビフィズス菌株間の共生関係の可能性を示唆したものとなります。
【原著論文】
GH43_24 exo-β-1,3-galactanase (Bl1,3Gal; BLLJ_1840)
GH27 β-L-arabinopyranosidase(AbpBL; BLLJ_1823)
GH30 exo-β-1,6-galactobiohydrolase (Bl1,6Gal; BLLJ_1841)
GH43_22 α-L-arabinofuranosidase (BlArafA; BLLJ_1854)
GH43_22 α-L-arabinofuranosidase (BlArafB; BLLJ_1853)
GH43_27 α-L-arabinofuranosidase (BlArafC; BLLJ_1852)
GH39 3-O-α-D-galactosyl-α-L-arabinofuranosidase (GAfase; BLGA_00340)
Sasaki, Y., Horigome, A., Odamaki, T., Xiao, J-Z., Ishiwata, A., Ito, Y., Kitahara, K., and Fujita, K.: Novel 3-O-α-D-galactosyl-α-L-arabinofuranosidase for the assimilation of gum arabic arabinogalactan protein in Bifidobacterium longum subsp. longum. (アラビアガム由来のアラビノガラクタン・プロテインの資化性のために必要なBifidobacterium longum subsp. longumの新規糖質分解酵素3-O-α-D-galactosyl-α-L-arabinofuranosidase) Appl. Environ. Microbiol., 87 (10), e02690-20 (2021). doi:10.1128/AEM.02690-20 AEM EC 3.2.1.215 GH39
鹿児島大学HPに掲載されました。鹿児島大学
森永乳業(株)でのニュースリリース 森永乳業(株)
GH36 α-D-galactosidase (BlAga3; BLGA_00330)
GH43_24, GH43_34 α-L-arabinofuranosidase (BlArafE; BLLJ_1850)
詳細は鹿児島大学研究トピックをご覧ください。
GH39 3-O-β-L-arabinopyranosyl-α-L-arabinofuranosidase (AAfase)
詳細は鹿児島大学研究トピックスをご覧ください。
GH146 β-L-アラビノフラノシダーゼ (Bl3HypBA1; BLLJ_1848)
詳細は鹿児島大学研究トピックスをご覧ください。
【総説】
【博士論文】